2007年度 海外日本語教育研究コース
日本語教師も考えたい世界と日本のこと

各回の講義概要をご紹介します。


第1回(5月11日)
 経済の視点で見る海外 −ベトナムの場合―
  講師:秋葉まり子(弘前大学教養学部准教授)

要旨:

 ベトナムは、「共産党一党独裁体制の堅持」と「経済発展を目指す市場経済への移行」を選択した国である。ベトナム経済がこれまで飛躍的な成長をとげてきたのは、管理された市場経済の下での国営企業の構造改善、海外資本、そして人々の豊かさの追求によるものである。さらなる経済発展を追い求める国内の内圧とAFTAやWTO加盟によって自由化への外圧を受けつつ、ベトナムは今後どう変わるのか。講義では、ドイモイ、金融システム、バッチャンの陶磁器村を中心に、今後の経済の課題を提示した。

第2回(5月18日)
 宗教・民族の視点で見る海外−マレーシアの場合−
  講師:伴美喜子(高知工科大学国際交流センター長・教授)


要旨:
 
マレー系、中国系、インド系、さらに少数民族によって成る多民族国家「マレーシア」は、イスラーム教を国教に、マレー語を国語に、政策としてはマレー人優遇政策をとっている。主要3民族は、お互いの文化に配慮しつつ、それぞれの宗教または「暦」による生活リズムを持ち続けている。そして、多民族が共存していることに「マレーシア人」としての誇りを見出している。講義では、講師が10年間のマレーシア生活で出会ったマレーシアの多様な宗教、民族文化が紹介された。


第3回(5月25日)
 旧ソ連の教育制度と中央アジア諸国
  講師:嶺井明子(筑波大学・大学院人間総合科学研究科准教授)

要旨:
 
ロシアの教育改革は、「民主化」、地方分権化、市場経済への対応といった基調で進んできたが、こうした動きを理解する上で国際的な「援助」、「協力」といった外部要因を見る必要がある。この点はソ連時代と異なる点である。1990年代は「移行期」、「混乱期」であり、教育の分野では「脱国家化」、地方分権化が進むと同時に、地方にダイレクトに国外からの「援助」、「協力」が行われ改革が推進されたが、2000年代に入り連邦が教育に主導権を取り戻しつつある。近年はEUの教育空間にロシアの教育を統合する方向で教育改革が進められている。高等教育ではボローニャ・プロセス、職業教育ではコペンハーゲン・プロセスへの統合という具合である。また、PISA(The Programm e for International Student Assessment)の影響もみられる。最後に旧ソ連圏のカザフスタンとの関係にも言及した。

第4回(6月1日)
 日本のパブリック・ディプロマシー
  講師:小川忠(国際交流基金日米センター事務局長)

要旨:
 
外交の目的を達成しようとするには、相手国政府に働きかけるだけでは充分でなく、 国民レベルに働きかけていくことが不可欠であるという状況になってきたのを受けて、90年代以降パブリック・ディプロマシーへの認識が高まる。パブリック・ディプロマシーの活動が目指しているのは、その国の「プレゼンスの向上」「イメージの向上」「理解の進化」であり、類型としては政府広報としての情報発信、国際文化交流、海外放送がある。日本語教育支援は、このうち国際文化交流に含まれる。講義では、パブリック・ディプロマシーとは何かを示したのち、日本のパブリック・ディプロマシーを歴史的に整理し、その主な担い手である外務省、国際交流基金、文化庁、NHK国際放送の各活動を紹介する。

第5回(6月8日)
 
JICAの基礎教育協力と事例紹介
  講師:石原伸一(JICA人間開発部第一グループ基礎教育第二チーム長)

要旨:
 
2000年の世界教育フォーラムや国連総会で基礎教育の重要性が再確認され、世界各国でさまざまな取り組みが行われているが、日本のODA政策においても基礎教育への支援は優先課題となっている。JICAでは、初中等教育の量的拡大、初中等教育の質の向上、ジェンダー・ギャップの改善、ノンフォーマル教育の促進、教育マネジメントの改善の5点を重点分野と定め、各種支援プロジェクトに取り組んでいる。そのうち、コミュニティと学校が一体となって教育改善に取り組んでいる事例として「ニジェール住民参画型学校運営改善計画(みんなの学校)」、教育の質の向上への取り組みの事例として「ケニア中等理数科教育強化計画(SMASSE)」を紹介する。

第6回 (6月15日)
 海外へ日本文化を伝える
  講師:中山圭子(虎屋文庫研究主査)


要旨:
 和菓子は、外来食物に影響を受けたのち、江戸時代に独自の進化をとげて現在に至 り、「五感の芸術」と言われている。伝統的な素材を使い匠の技をもって作られた和菓子は、四季の季節感、自然美をその形や色に加えただけでなく、日本美術の影響も見ることができる。それ故、和菓子に集約された日本文化を紹介することは容易ではない。講義では、国際交流基金日本文化紹介派遣事業として韓国、イタリア、ブルガリア、ギリシャで和菓子をどのように紹介したのか、また和菓子に接した各国の人々の反応などが紹介された。


第7回(6月22日)
 危機管理とコミュニケーション
  講師:鷲見徹也(横浜国立大学教育人間科学部講師)

要旨
 若者のコミュニケーション不全が指摘されているが、コミュニケーション能力がないのは、大人も同じ。大人のコミュニケーション不全は、事故や不祥事につながりやすく、より深刻である。危機管理に欠かせないのがコミュニケーションだが、企業や組織が必要なコミュ ニケーションに欠けている背景には、ウチ向きのムラ社会の発想にひたり切っていることがある。事故や不祥事に至らないまでも、日常生活に見られるコミュニケーション不全のケースを取材していくと、そこには公共意識や他者への想像力、日ごろの危機管理意識の欠落が見られる